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UTALI

書き溜めておいた技術記事や旅行記のバックアップです。

経済格差の何が問題なのか? 天才経済学者 トマ・ピケティ 教授が語る

ピケティの『21世紀の資本』は非常に長く、読み通すのが困難な本です。

しかし、フォーリン・アフェアーズのピケティ氏のインタービューがこの本の要点を突いた議論をしていたので、わかりやすいと思います。

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インタービューワー:ジャスティン・ボー(Justin Vogt)

インタービュイー:トマ・ピケティ(Thomas Piketty)

www.youtube.com

ボー「あなたは近年の所得格差の拡大についての著作で高く評価されています。そして、その格差の水準はかつての『金ぴか時代』に匹敵するほどで、最も豊かな1%または0.1%の人々がかなりの割合を独占していると」

ボー「しかし、一方では皆の所得が同時期に同じ割合で拡大したにすぎない(格差は広がっていない)と主張する人もいます。」

ボー「そこで質問なのですが、どうして私たちはこの種の経済格差に注意を払わなければならないのでしょうか?」

ピケティ「私は社会全体の利益に適う限り、不平等は問題にならないと考えています。問題になるのはそれが過剰になってしまった場合です。一方で、どの程度の格差が社会にとって有益あるいは害になるのかというのは非常に難しい問いですが」

ピケティ「前もっていっておきますが、私は数理モデルによるこの問題に対する答えを用意しているわけではありません。」

ピケティ「この本によって試みたのは多くの歴史的証拠を経済格差に関する議論にもたらすことです。決して不平等に対する戦いに終止符を打つものではありません。不平等に対する戦いはまだ続くことになるでしょう。しかし少なくとも我々が何にたいして戦っているかということははっきりしたはずです。」

ピケティ「わたしの第一の目的は、先進10ヶ国の産業革命以来の歴史資料を収集し、一貫した手法によって、これらのデーターをまとめ上げることです。」

ピケティ「この本の最後には、結論として将来に向けての提言をはっきりとした形で述べています。人々はそれに同意しないかもしれませんが、この本の一章から3章までの所得と資産の歴史に興味をもっていただけるだけでも十分なのです。」

ピケティ「この問題に対する答えを明確にすれば、1つの歴史的教訓は経済成長をするために19世紀の高い水準の格差は必要ないということなのです。」

ピケティ「つまり、不平等は経済成長になんら貢献していないということなのです。20世紀において第一次世界大戦以前に広がっていた不平等は、戦争による資本の破壊と再分配政策、あるいは累進課税によって、かなりの程度緩和されました。同様に1950年、60年代において再分配政策が実施されましたが、それは決して経済成長を阻害しませんでした。それどころか、歴史上まれな高水準の成長が見られました。資産・所得格差の縮小、階級間の流動性の高まりが見られ、中産階級に富が集中したのです。それはおそらく経済成長に貢献したのでしょう。」

ピケティ「ですから、私たちは19世紀の水準に回帰してしまわないように気をつけなければいけません。もちろん、完全な平等を目指すということではありませんが」

ボー「あなたの新作が注目したのは、単純しかし深遠な、経済成長率と投資による利回り率の関係性です。r>gで表現されるこの関係は、投資家が受け取る投資に対する利潤率は、経済全体の成長率を上回る傾向にあるということです。あなたはどのようにこの関係を説明するのですか?そしてどうしてこの関係は経済に対する影響力が大きいのですか?」

ピケティ「現代の感覚からすればr>gの式はおかしいように思えますが、人類の歴史上ほとんどの場合においてこの関係はだれにとっても明白なことでした。もっともだれもわたしのような定式化は行いませんでしたが。」

ピケティ「なぜなら歴史上成長率は0に近いことがほとんどで、人口成長はほとんどありませんでした。生産性の向上は極めて小さく、0%に近かったのです。もちろんそのような時代でも投資の利回り率は正でした。 」

ピケティ「そしてそれを享受していたのは伝統的な社会の地主(領主)であり、領地から年貢を徴収することで土地代の4〜5%に当たる利回りをえていました。したがって、伝統的な計算式に従えば当時の土地代は20〜25年分の年貢に相当する金額だったのです。 」

ピケティ「ジェーン・オースティンの小説を読めば、当時のことがわかります。1000ポンドの利益が欲しければ、20000ポンドの資本が必要だったのです。ある意味、これは社会の根幹であるとも言えます、領主の資産となる者はなんであれ、維持され、ほかのことをすることができ、自分自身の生存だけを考えればよかったのですから。」

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ボー「つまり、r>gはある種の利潤インセンティブが存在するために必要だったのですね。」

ピケティ「いえ、利潤インセンティブというより、むしろその地代によって生活するためで、それによってほかの活動ができるからなのです。おそらく、研究活動や貴族階級のためです。彼らは侵略から人々を守ることを義務付けられていましたから。」

ピケティ「そしてこのようなことが実現するには、利回り率は成長率を上回っていなければいけなかったのです。成長率がゼロに近い社会ではこれは容易でした。これこそが伝統的な資産を基礎にした社会の礎だったのです。」

ピケティ「しかし19世紀に入って、産業革命が起こると、事情は変わりますが、そこまで大きな変化ではありませんでした。」

ピケティ「成長率は1〜1.5%で、30年を超える世代の空白がありましたから。50%生産性を上げたことになります。これは世代間で大きく生活水準を上げたことになります。」

ピケティ「しかし、これは r>gの式に変化をもたらすことはありませんでした。これは19世紀の富の集中が第一次世界大戦によって終止符が打たれるまで続きました。その水準は「旧体制」とほとんど変わらなかったのです。つまり、1900・10年代にはイギリスにもフランスにも中産階級は存在しませんでした。90%の富が上位10%の人々に集中していました。」

ピケティ「この現象の説明として、r>gの法則が挙げられるのです。」

ピケティ「そして、20世紀の間に一連の歴史上まれに見る現象がr>gの式を逆転させたのです。」

ピケティ「1914年から1945年までの間に発生した資本の破壊とインフレーションによって、劇的に私有資産にたいする利回りを減少させました。そして、成長率は戦後急激に上昇したのです。それは部分的には戦後の復興によって、そしてベビーブームと呼ばれる急激な人口成長によるものです。その人口の増加はいまでも終わっていません。」

ピケティ「この2つの要因ゆえに極めて高い経済成長を享受できたのです。」

ピケティ「そして、いま私たちは昔に回帰しています。先進国では、人口減少をはじめとした要因で、成長率が伸び悩み、利回りは、投資を呼び込むための租税競争をはじめとした要因で、高い水準になっています。r>gの不等式について20世紀の間は現実にはあてはまらずほとんど忘れさられていていたようです。しかし、これから長期にわたって、この不等式と付き合うことになるでしょう。これは初期の資産の格差をさらに拡大させる重要な力学となるのですから。多くの資産を持っている人は、労働所得に得る人よりも簡単に資産を増やすことができるのです。」

ボー「今日ではこれらの衝撃的な富の不平等に直面しているわけですが、あなたの本にはこの問題に対してどのように取り組むべきかについて2つの解決策を提示しました。」

ボー「高所得者層に対する所得税を80%に近い妥当な水準に上げることと、あらゆる資産に対するグローバル課税を実行することです。どうしてこのような施策が機能するのでしょうか?」

ピケティ「まず、第一に最も好ましい政策は成長率を上げることです。その他には教育水準を上げることも望ましいことです。それは所得の不平等を是正する主要な手段だからです。」

ピケティ「問題はそれで十分であるのか?ということです。」

ピケティ「たとえば、アメリカの経営者の報酬に目を向けてみると、それは低所得者の教育格差の問題というよりも、経営者のグループが、彼ら自身の実績とは無関係に自分の報酬をコントロールできるということが問題だということがわかります。」

ピケティ「アメリカでは近年、経営者への報酬額の上昇に伴って、不平等の上昇が見られました。それは成長統計を除外するものでした。なぜなら、1980年代からアメリカ経済の実績はあまり良いものではありませんでした。GDP成長率は1.5%程度で、それ以前の水準と比較するとかなり低いものでした。そのわずかな成長分の2分の3が上位1%の所得になりました。ほかの層にはわずかしか割り当てられなかったのです。この経営者報酬の上昇に歯止めをかける方法として、非常に大きな金額の所得に対して高率の課税をするという方法が挙げられます。そしてこれは成長を阻害することはないでしょう。スウェーデンやドイツのようにアメリカと同程度の成長をしている国をみてください、そうした国では経営者の報酬は多くありません。」

ピケティ「さて資産課税について考えてください、これはr>gの法則に関連したものです。」

ピケティ「根底となる事実は過去数十年の間に、アメリカや欧州、あるいは国際的な水準で、所得格差は世界経済の3倍もの規模で進んでいることです。中産階級に対する所得は事実減少しているのです。ですからアメリカでは下位50%に向かう富の量はわずか2%で、次の40%、すなわち中間層に向かうのは23%です。そして上位10%に75%の富が集中するのです。これはあまりに極端な富の集中です。ですから富の流動性と下位層が資産を築く機会を高める施策を考えなければいけません。同時に上位層の極端な富の集積に歯止めをかけなけばいけないのです。」

ピケティ「ひとつのやり方は、一国でも ー 特にアメリカのような大きな国では ー 可能なことでありますが、資産課税を純資産に対する累進課税の形に変えること、90%の下位層が払う資産税を減免することが重要です。もし50万ドルの住宅を49万ドルのローンを組んで購入したとします。純資産は1万ドルです。このような場合に(総)資産に課税すべきではありません。負債のない人の純資産に対して課税すべきです。より多くの人が富を集積することは必ずしも富の総量を少なくすることにはなりません。これは20世紀の歴史の教訓です。中間層に富を集中させ、富の流動性を高めるような税制を施行すべきです。少数の人間が富を独占することは、中間層を破壊し、民主主義の機能不全をもたらしかねません。」

ボー「エコノミスト誌のタイラー・コーエンはあなたの本をこう批評しました。あなたは高率の資産課税と再分配をする権力を与えることで、州または政府が税制を悪用する可能性を無視している。」

marginalrevolution.com

ボー「あなたの著作のすぐれたところは「検証されない」資本と資本家があまりに大きな権力を行使する可能性を指摘したところであります。しかしあなたは政府と政治家が同様の行為をする可能性を無視している。というものです。」

ボー「この批判に対してどのように反論しますか。」

ピケティ「必要なのは定期的で批判的な検査と民主的な組織であり、私は直接民主制と代表的民主制度を信用していますから。しかし、可能な限り信用できる政府を打ち立てることが困難であると信じることはありません。」

ピケティ「しかし、同じことが億万長者に関して言えるとは言えません。そこには民主的な調節機構がありませんから。確信的なことはいえませんが、1世紀前にはこの国の多くの人々は累進課税は連邦政府に与えるべきものでないと考えていましたので、そこで大きな戦いがありました。 」

ピケティ「憲法はそれが起こらないようにしていましたが、現在では実現しています。それは皆が同意するでしょう ー おそらくタイラー・コーエン氏も含め、 ー 累進課税が良いものだと」

ピケティ「わたしは累進資産課税が困難なものだと考えていません。どちらも有用で、21世紀には ー 特にアメリカのような国では、 ー 資産は重要性を増すでしょう。」

ピケティ「19・20世紀には人口成長が顕著でしたが、21世紀ではそれは小さくなるでしょう。アメリカの人口は300万人から3億人まで成長しました。もし人口が減少局面に入ったならば、集積された富は重要性を増します。 」

ピケティ「もし富の流動性を維持したいのでしたら、富のストックとフローの課税のバランスを再検討しなければいけません。これは資産を接収するという意味ではありません。人々に新たに富を築く機会を与えるということです。」

ピケティ「それゆえに所得と資産の課税のバランスを再検討する必要があります。ですからこの問題について議論を交わす必要があります。」

ボー「ピケティ教授、本日はありがとうございました。」

21世紀の資本

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